福井地方裁判所 昭和34年(ワ)84号 判決 1963年5月09日
主文
被告は原告に対し金一〇三万八、二五〇円及び之に対する昭和三二年六月一日以降右完済迄年六分の金員を支払え
訴訟費用は被告の負担とする
此の判決は原告が金三〇万円の担保を供するときは仮に執行することができる
事実
原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決並に仮執行の宣言を求めその請求原因として
(一)原告は福井人絹取引所の会員で、同取引所市場に於ける人絹糸売買取引の受託を取扱う仲買人であるところ、被告から右取引所の市場に於ける売買取引の委託を受け左の取引を成立せしめた
(1)昭和三一年一二月一八日前場一節で、先物(昭和三二年五月限)一〇枚を建値一封度二三九円九〇銭で
(2)同月二一日前場一節で同限月物一〇枚を建値一封度二四〇円二〇銭で
(3)同日同場二節で同限月物一〇枚を建値一封度二四〇円三〇銭で買玉を建てたが、昭和三一年一二月末に至り相場大暴落し弱気は年を越えても止まず、限月の昭和三二年五月には遂に一封度一六〇円台の最悪の情勢になつたので、昭和三二年五月二八日(納会日)の前場三節の建値一封度一六三円で右買玉全部を已むなく手仕舞した
そのため被告は前記(1)の買玉で合計金三九万八、二五〇円(内一万三、七五〇円は委託手数料)(2)の買玉で合計金三九万九、七五〇円(内前同額手数料)(3)の買玉で合計金四〇万二五〇円(内前同額手数料)三口合計金一一九万八、二五〇円の損失を蒙つた
尚前記(1)の建玉は被告の指図により「市丸太一郎」をその委託者名義としたが、該取引に対する一切の責任は被告が負う定めであつた
「註建玉一枚は五〇〇封度である」
(二)原告は被告から右取引の委託を受けた際証拠金として金一六万円を受取つているので之を右損失金より差引き残額金一〇三万八、二五〇円を前記昭和三二年五月二八日被告は原告に対し支払わねばならない
仍て原告は被告に対し右残額金及び之に対する支払期限後である昭和三二年六月一日以降右完済迄商事法定利率なる年六分の割合による遅延損害金の支払を求める為め本訴に及ぶと陳述し
被告の抗弁事実を否認する。但し福井人絹取引所定款に被告主張のような規定があることは認めると述べた。
立証(省略)
被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め答弁として
請求原因(一)中被告が原告に対し人絹糸売買取引の委託をしたとの点は否認、その余は不知(二)は全部否認する、被告が原告に昭和三二年一月二〇日金一六万円を支払つたことはあるが右は原告の言うように証拠金として払つたものではないと述べ
抗弁として仮に原告主張のような取引の委託があつたとしても
(一)福井人絹取引所の定款第一三一条によると商品仲買人は売買取引の委託について委託者から委託証拠金を徴しなければならないことになつているところ、被告は委託証拠金を支払つていないので該委託契約は結局有効に成立しなかつたものと謂うべく右委託契約の成立を前提とする本件損失金の支払義務は無い。
(二)右抗弁が理由がないとしても、民法第六五〇条第三項によれば受任者が委託事務の処理上生じた損害については受任者に過失が無い場合に限つてその賠償を請求し得べきところ本件の場合被告の明確な委託も無く、且当時相場の暴落が予想される事情にあつたのにかゝわらず昭和三二年五月二八日迄手仕舞することなく傍観していた過失により損失を増大させたものであるから被告にその支払義務は無い。と陳述した。
立証(省略)